2011年3月7日月曜日

二十代なかばの浪人生だったりした日には

数年前,ナカムラの友人が勤める大学の入試でカンニング事件があったという話をきいた。試験が終わって英語を採点しているときに,ある答案用紙の中に,複数の問題にわたって,数枚前の答案とほぼ同じ間違いが含まれていることに採点者が気づいたのだ。そこで,該当する受験者の席順をしらべてみると,斜め前と後ろの関係になっていて,後ろの受験者がのぞき見をした可能性がかなり大きいことがわかった。さらに調べてみると英語以外の答案でも,同じことが書かれている箇所が多数発見され,不正行為の疑いが濃厚である。

しかし,これは本当に困ったことである。たとえばカンニングペーパーを盗み見ている現場をおさえる,とかというのと違い,答案が似通っているというだけでは,不正行為のハードエビデンスにはならない。「偶然に答えが一致しただけだ」と強弁されれば反論できないのである。ことは大学の入学試験で,ある意味で人生がかかっているわけだから,「極めて疑わしい」というだけで入学させないというわけにはいかない,本当に偶然だった場合はえらいことだ。

で,その大学は結局どうしたかというと,とりあえず採点を終えて合否判定までもっていったそうだ。そうすると,見たほうも見られたほうも,きわめて出来がわるく,合格水準のはるか下だったので,関係者一同胸をなでおろし,「見るんだったら,もっと賢いやつにすればいいのに」などと冗談をいって一見落着となった。

で,なにがいいたいかというと,先日の京大入試カンニング事件で,茂木健一郎という脳科学者(この人を「科学者」と呼ぶにはかなり抵抗があるけど)が,「報道された複数の大学を共通して受験している学生を、大学間で情報を共有して割り出せば、少数の候補を特定できたはずである。」などと書いている件についてである。ほかでも同様の意見を何件かみかけたが,茂木氏は有名人なので代表していただこう,twitterではもっと過激だったそうだし。少数の候補を特定して,その先どうするんですか? 合格発表までの極めて短い間に100%確実な証拠がでてくる可能性は極めて低い。

 さらに,当初は単独犯ではなくて大規模な組織の仕業であった可能性も否定できなかったわけだから,数十人規模の受験生が外部から解答を入手して,それぞれの学力によって部分的に利用していたりすると,解答を吟味するだけで,不正を過不足なく処分するのは全く不可能である。いや,全部見のがしてしまえ,という過激な意見もあるが,それを言い出したら試験監督など全くなしで試験をやれ,ということにならないだろうか? そのおかげで落第する,ひょっとしたら数十人にものぼったかもしれない受験生のことを考えてるんだろうか,と思ってしまう。そういう悲劇の可能性があったわけだから,それを防ぐために大学側がとった対応は,この浪人生にとっては不幸な結果を生んだとはいえ,問題発覚時点でするべき必要不可欠なものだったと,ナカムラは思うわけである。

ところで,この問題の法的な側面は専門家の間でも意見の相違があるそうだが,この解説は参考になりました。この問題では,大学の対応については意見がわかれるが,この解説の最後にもあるように,衆目の一致するところは,予備校や出身高校まで押しかけ,恋愛履歴まで報道してしまうというマスコミの対応への批判だろう。唯一の救いは,本人が未成年だったので名前や顔写真が報道されていないことだが,もし,これが数年落第した二十代なかばの浪人生だったりしたら,顔写真つきでおもしろおかしく報道するんだろうなあ,などと思うと恐ろしくなる。などと思っていると,ちょっと救いになるような報道もみかけた。罪を憎んで人を憎まず。

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