2015年1月13日火曜日

Steppin' to the Bad Side

あなたに,めちゃくちゃ好きな異性ができてしまって,むこうもまんざらでもない感じ,ところが相手にはすでに配偶者がいて,去年はやった「昼顔」のような状況になったとしよう。あるいはこの曲とか。で,密会をつづけるうちに,ある日,相手が「絶対ばれない方法があるんだけどあいつ(配偶者)を殺してくれない?」と言ったら,どうします?

まあ,これはひとによりけり,あるいはどれくらい相手に入れこんでるかという状況にもよるだろうけど,どうしてもゆずれない自分の強烈な欲望があって,それが著しく道徳に反する場合,どうするかっていうのは難しい問題だと思う。死ぬほど愛していて,彼もしくは彼女なしの人生なんて生けるシカバネ同然というような場合はどうするだろう?

いや,実は昨今の科学捏造疑惑に関連して,この記事を読んでこんなことを考えたのであるが,自分が生命科学分野の研究者の卵,あるいはカケダシの研究者で,研究者として生き残るためにどうしても捏造をせざるを得ない状況にあったらどうするだろう,と思った次第である。生命科学のような研究分野の魅力は抗いがたい(注)ものがあり,研究を一生続けることができるのと,それをあきらめてさほど好きでない全く別の仕事に就職するのは,人生の楽しさがまったくちがってくるのではないかと思う。

実際,ナカムラは幸いにもそのような分野のひとつである物理の研究職こつくとができたが,そうでない人生を想像するとぞっとする。自分の好きな研究を自由にできるって,本当に幸せなことです。とくに過去をふりかえると結構あぶなくて,30過ぎて一時無職だったりしたことがあるから切実。もちろん,研究以外の人生だって,それなりに楽しいことはあるはずだが,それと研究を愛することはまた別問題。不倫はいかんということで,好きな異性とわかれてもそのうち立ち直れるというのと,その相手がめちゃくちゃ好きというのが別問題だというのと同じだ。

幸いなことにナカムラの嗜好は物理の理論的な仕事だったので,捏造したくてもする余地がない。論文に計算が全部書いてあるので,だれでもあとを追って確かめられるのだ。そして確かめた結果,計算間違いしとるやんけ,というのはたまにあるが,いや,実は頻繁にあるが(涙),しかし,よこしまな心の入り込む余地はない。身の潔白を簡単に主張できるわけだ。よかった。

ところが,もし,ひとりで実験していて,これがうまく行かないと業界で生き残ってはいけない,みたいな状況に追い込まれたらどうだろう。いや,「いかに不利でも私は悪魔の誘惑には負けない!」という個人の決断ができる場合はまだいいが,研究室のボスが水戸黄門か大江戸捜査網に出てくる悪代官みたいなやつで,「おぬしも,ここで生きていきたいなら,わかっておるじゃろうな?死してシカバネ拾う者なし,ふっふっふ」みたいに言外に捏造を指示してきたら?

ノーと言えば確実に将来はないし,研究室の先輩も,そこを上手くやってボスの紹介でどこかの大学の研究職についてるし,とかいう場合はこの判断はなかなかキビしい。さらに,業界の常識である程度は「色をつける」のが暗黙の了解になっていて,どこまでグレーゾーンかわからなくなっているような状況だと,思わず手を染めてしまう誘惑は大きなものだろう。自分の正義に従って研究をはなれ,砂をかむような味気ない人生を送るか,steppin' to the bad sideで研究者になって禁断の甘い蜜をなめるか。あなたならどうします?

自分だったらどうするんだろうなあ,と考えると,結論は「あー,そういう業界じゃなくてよかった!」

(注)ところで,まったく本題と関係ないが,ナカムラはこの文章をかくまで「抗いがたい」というのを「あがらいがたい」と読んでいた。変換できないから気がついた。日々これ勉強ですね。

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