2011年2月25日金曜日

月も火星もはるかに越えて(2)

前回「月も火星もはるかに越えて」というタイトルにしたら,一部でとても食いつきが良かったが,これは実はキャプテンウルトラという昔のSFテレビ番組の主題歌の出だしである。この歌詞にあるように,この手のSFでは,地球を宇宙船で出発すると,あっというまに「月も火星も」越えてしまって,宇宙人のいる別の惑星系まで飛んでいくのが普通である。

しかし,実際に月や火星,ましてやバンデル星人のいる遠い宇宙にそんなに簡単に行けるのだろうか? 前回,宇宙は人類のフロンティア,みたいな話を書いたが,今回はそのフロンティアとしての宇宙のどの辺まで人類は行けるのか,ということを考えてみよう。実は現実は結構残念な状況である。

まず,「月も火星も」といっしょくたにするが,この二者はかなり距離が違う。地球から月までは約40万km,それに対して火星までは軌道の関係で地球との距離が一定ではないが,ざくっと言って数億kmの距離がある。つまり3桁もちがうのだ。月までの距離を,福井県立大学からサニーサイドまでと例えると,火星は東京までの距離になる。うちの大学の関係者以外は「サニーサイドってなに?」と思うかもしれないが,それは福井県立大学の近くの喫茶店です。福井から東京までの距離を地球から火星にたとえると,月ぐらいのところにあります。

ということで,人類はすでに月までは行ってるわけだが,これは数日で行って帰ってこれた。サニーサイドに昼飯を食べにいくようなものである,ちょっと違うが。しかし,火星までになると最短で2年ちかくかかるわけで,現在,火星旅行に必要な520日間閉鎖された宇宙船のようなにとじこめられたら,人間はどうなるだろうという実験がおこなわれていたりする。シュピーゲル号(キャプテンウルトラの宇宙船です)のように,あっというまに「はるかに越えて」というわけにはいかない。

ちなみに,アメリカやロシアで火星旅行の計画がなされてると聞くと,荒涼たる砂漠のような火星の大地をふみしめる宇宙飛行士というイメージを想像するが,たぶん,みなさんが生きているうちにそういう映像をみることはない。火星に一度着陸してしまうと,また宇宙空間にもどるために,大きな打ち上げ用ロケットが必要になるからだ。月の場合は重力が弱いので,アポロの月着陸船程度のロケットで帰ってこれたが,火星の場合は,地球より少し小さいとはいえ,れっきとした惑星なので,重力をふりきるには,莫大なエネルギーが必要なのである。したがって,今計画されている火星有人探査は周回軌道をまわるだけ,つまり宇宙ステーションから地球をみるように,火星をながめて帰ってくるだけである。

まあ,それでも往復で520日なら,なんとか我慢して火星まで行ってこようという気になるかもしれない。しかし,すぐおとなりの惑星の火星ですらそんなにかかるのだったら,他の惑星に行くにはどれくらいかかるのだろうか? たとえば,土星にはカッシーニというアメリカの無人探査機が行っているが,これは到着までに8年かかっている。片道8年ということは往復で16年,宇宙船の居住スペースがどれくらいかは不定要素があるが,いまの国際宇宙ステーションとくらべてそれほど違わないと考えられるだろう,そのような閉鎖空間で16年暮らさなくてはならないのだ。

太陽系のほかの惑星に行くだけで人生の何分の一かの期間,恋も娯楽もあきらめて閉鎖空間にいなくてはならないというのは,それだけで憂鬱だが,しかし,そうして行ける太陽系の惑星には高等生物がいないことは,ほぼ確実だ。では,バンデル星人のような宇宙人に会いに太陽系外の星に行くのはどれくらいかかるのだろうか? 実は太陽にもっとも近い恒星は約4光年先にあるが,これは火星までの距離の数十万倍になる。つまり,火星までの距離を福井-東京間にたとえても,「月をはるかに越えて」という距離になってしまうのだ。太陽系の惑星間を数年から数十年で移動できる現在の技術だと,いくら頑張っても数万年かかってしまう。

しかも,数万年かかるのは,4光年先の太陽のおとなりの恒星であり,われわれのいる天の川銀河(直径8〜10万光年)の中では,ごくごく近所であることを考えると,もう気が遠くなる。さらに,おとなりの銀河であるアンドロメダ銀河が約230万光年先だったりするわけで,宇宙ってのはひろいなあ。いや,そのアンドロメダだって,われわれの知っている宇宙のなかでは,ごくごく近所で,現在観測されているもっとも遠い銀河は100億光年以上先にある。で,われわれ地球人が現実的に行けるのは,そのひろい宇宙のごく一部,たぶん,一生懸命がんばって土星あたりがいいところじゃなかろうか,と思うわけである。「月も火星もはるかに越えて」宇宙にとびだしても,行けるところは,たかだか知れてるわけだ。

2 件のコメント:

  1. ナカムラさんご指摘の通り、時間の問題も重要ですが、関連して放射線被曝も人間が到達できる距離の上限を決めるみたいですね。以前放医研の先生のお話で、海王星軌道に到達するまでに、致死量の放射線を浴びてしまうという話を聞いたことがありますよ。もっとも、瞬間に強烈な放射線浴びるのと、弱めの放射線を長時間じわじわ浴びるのでは、トータルの量としては同じでも、効果が違ってくるようですが。TN

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  2. 「ジョー.ハック!」

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